メールマガジン「フィンランド」第 5 号 2007年 9月

切手の写真:スグリの実
Karviainen
Rives uva-crispa
Gooseberry

 By Maya and Kari Gröhn

フィンランドのサマーコテージ

Höytiäinen     地図:フィンランド観光局

 サマーコテージというのは大半が湖とセットになっています。カリのサマーコテージも北カレリア地方のホイティアイネン(283平方キロ)という湖の中にあります。私たちの住んでいるヤルベンパーからまずヨエンスーというところまで電車を乗り継いで6時間あまり、そこで食料を調達した後、湖岸までタクシーでさらに40分という、そう気軽に行ける場所ではありません。ただし、不便さと引き換えに自然はそのまま残されています。
 少し見えにくいかもしれませんが、下の写真の中ほどにあるながーい岬の先端部分(赤い線で囲ったところ)が領土(?)です。湖岸からボートで5分もかかりません。

 カリはこの土地を父親から譲り受けました。カリとカリの前妻は二人の娘とともに夏はいつもここで過ごしていましたが、娘たちが大きくなるとそう頻繁に訪れることもなくなったようです。なにしろ遠いですからね。ただ、今回だけは珍しく下の娘夫婦が赤ちゃんのヨンナと犬のペッカを連れて私たちに合流しました。
 ヨンナにとってははじめてのサマーコテージ。ああ、フィンランドの子供たちはこんな幼い頃から自然に触れていくのかと感心します。

 

 サマーコテージでの乗り物はこの簡素なボートです。でもこれがとても便利。
 浅瀬を横切るときには手で引きずることができ、モーターをつければかなり遠くまで遊びに行くこともできます。

 

 

 これがサマーコテージのメイン部分です。サウナ、トイレ、倉庫などはそれぞれ別の場所に作られています。見たところこじんまりしていますが、中はけっこう広く大きなリビングと寝室が二つあります。リビングを含めそれぞれの部屋にベッドが二つずつ置いてあります。
 到着して真っ先にしなければならないのは煙突のカバーをとること。

 白く見えるのは暖炉です。暖炉は夏でも欠かせません。
 空気を入れる窓にはすべて網戸が入っています。7月に入って少しはましになったといいますが、なにしろ蚊がものすごいのです。それに加えて蟻。蟻だけはどうしても防ぐことができません。家の中に入ってくる蟻は水辺の赤蟻と違って噛むことはないというのですが、私だけは免疫がないのかいつも数え切れないほど噛まれてしまいます。そういうところに生後7ヶ月のヨンナですから、はたして大丈夫かと私ひとり心配していましたが、でもヨンナは機嫌よく過ごしていました。世界とはこんなもの、と最初から思ってしまえばたいていのことは受入れられるのかもしれません。

 

 こちらがサウナです。
 サウナ室と着替えの部屋とに分かれていて着替えの部屋には二段ベッドもあります。お客が多いときにはここも寝室になります。

 

 サウナから出たあとは湖に飛び込んでほてった体を冷やします。
 電気もシャワーもないけれど、これぞコテージ暮らしの醍醐味といえるでしょう。

 

 こちらは子供の家です。フィンランドではよく自宅の庭にも子供の家をつくっているおうちがあります。上の写真がなければどんなに大きな家かと思ってしまいますが、大人は背中をかがめないと入ることも立っていることもできません。

 

 ボートで湖面に出ると空の広いこと、近いこと。丸い地球の上に立っている自分の姿が見えるような気がします。
 上の写真はなんのへんてつもない景色に見えますが、真ん中の色が濃くなっているところでは雨が降っているのです。フィンランドの天気はご覧のようにとても変わりやすい、と同時にわかりやすい。漫画に描けそうな風景です。ついでに孤島漫画もできそうです。ホイティアイネンは特別大きな湖ではありませんが、それでも人ひとり座っていられる程度のものを含めると数え切れないほどの島があるのです。

 

 

 島にいる間はカリは王様です。巻き割り水汲み、掃除を終えた島の王様は領土の見回りを行います。幅こそ狭いものの長さだけはたっぷりあるので、先端までゆっくり歩いて30分はかかります。
 フィンランドでは誰でも森に入ることが許されています。焚き火の跡からみて、近くの人たちがボートでやってきてはここでソーセージを焼き、ビールを楽しんでいるようです。突端のところでは木の切り株をうまく使って焚き火のまわりに椅子までこしらえてあります。
 大昔には世捨て人のような僧が木で囲んだ簡易サウナを使っていたとか。世を捨ててもサウナだけは捨てられないのがフィンランド人か。

 またあちこちでこの写真にあるようにビーバーが木を齧って倒した後が見られます。ダムをこしらえるため、といったような説も聞きますが、こうアトランダムに倒されている木を見ていると、ビーバーたちはなーんにも考えちゃいない、と言いたくなります。
 木を齧るのはビーバーの性でしょう。齧らなかったら歯がどんどん伸びて口を閉じることもできなくなるかもしれません。ビーバーにもなかなかつらいものがあります。
 でも、かじって、かじって、かじりたおして、ついに倒れるときの様子ってどんなものでしょうね。
「わっ、わっ、わーっ! アレーッ!」
と、一匹ぐらい下敷きになってしまったとんまなビーバーがいるかもしれない。

 

 「のみちのはずれにましろいはなびら いつしかひらいたいちごのはな」
その昔「野いちご」という歌を小学校で習いましたが、この歌がフィンランドの歌とは知りませんでした。
 コテージの周りにも少し野いちごを見つけることができました。
 野いちごは小さな実です。子供の手のひらでもこのくらい。

 

 

 くれなずむ夕暮れ。サウナの窓から。

 

 夜も更けてきました。空にかかった月。フィンランドでは何でも大きいけれど、まさか月までこんなに大きいとは思いもよりませんでした。「盆のような月」とはまさにこのこと。
  しかしもっと驚いたのは星です。
 私がはじめてこのサマーコテージを訪れたのは夏ではなく3月でした。フィンランドでは3月はまだ冬のさなかです。長い夜と氷の世界。湖はもちろん凍っています。外はマイナス20度。
 そこでサウナから出て空を見上げたときのあの驚き。いやもう空にはすきまもないぐらい星がびっしりつまってそれがまばゆいほどきらきらと輝いているのです。私はいわゆるド近眼といわれるほど目が悪く、ふだんメガネがなければ何も見えません。その私でさえ、メガネなしであれほどの星が見えるとは。
 あわててメガネをかけてまた呆然。星降る夜という形容がありますが、あの夜はまさにそれにあてはまります。ときおりすーっと流れるような光は流れ星でしょう。

 寒さも忘れて見とれていましたが、ふと頭に手をやってまたガクゼン。髪の毛がバシバシに凍っています! 急いで部屋に飛び込んでタオルで頭をつつみました。ひょっとして髪の毛がみんな折れて丸坊主になるのではないかと心配しましたが、髪の毛って意外に丈夫なんですね。健気にもちぎれもせずちゃんと残っていました。

 

 夏でも夜は冷えますが、おき火になった暖炉の火は一晩中小屋を暖かくしてくれます。サウナや暖炉の火のためにもサマーコテージに薪は欠かせません。フィンランドの人にとって薪はいつも身近な存在なのです。

 はじめてフィンランドに来たとき、カリがある日の新聞で「妻が夫を斧で殺した」という記事が載っていると教えてくれました。殺傷事件はべつに日本でも珍しくはないでしょうが、口論のあげくかっとなって「えーいもう、殺しちゃる!」といった展開になった場合に、「斧」てなものが手近なところにあるという状況は日本ではあまり考えられません。
 ついでにもうひとつフィンランドらしいところは、と、カリが付け加えます。
「わが国の女性は決してヤワではない」


 

次回は「秋の収穫祭 」をお送りします。

 

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