メールマガジン「フィンランド」 第16号 2008年6月

By Maya and Kari Gröhn

 

あっという間に6月になり、あっという間に7月に入ろうとしています。(毎度この手の言葉から始まります。)
ミッドサマーを過ぎてフィンランドは今最高の季節を迎えました。夜の10時になってもカンカン照り。それが白夜、光のシーズンです。

そして今はまた花のシーズンでもあります。
あたり一面をブルーに染めているのは勿忘草。人の庭先でも勿忘草だけは芝刈り機から逃れ、あちこちで愛らしく咲いています。

 

しかし、この勿忘草もあっという間に盛りを過ぎ、いま森の主役になっているのはスズランです。

スズランはでも勿忘草を違って下向きに咲くため、群生の美しさを写真で表すのは苦労します。

 

 

リンゴの花も咲き始めました

 

そして虫たちも活動を始めます。

カトンボ見つけた。

 


フィンランド映画

「Pahat Pojat」 (The Bad Boys)

監督:アレクシ・マケラ

以前、現金を引き出そうといつものATM(Otto)に向かっていたときのことです。カリが「あれっ! Ottoがない!」と声をあげました。「んな、ばかな。昨日までここにあったんだ!」
ATMはじつは少し先の向かい側に移動しておりました。それだけのことです。それぐらいのことでなんでそんなスットンキョーな声を出すのよ、と言いかけましたが、じつはそれにはわけがありました。

もう何年も前のことですが、フィンランドでATM機や自動販売機がそっくりそのまま盗まれるという事件が相次ぎました。あまりにも大胆な犯行に警察はマフィア関係の盗みのプロかと疑ったりもしました。この映画はその実話を元につくられています。

オットー、マッティ、イルッカ、エーロの四人の兄弟たちは狂信的な父に育てられ、世間から隔絶して暮らしていました。父は自分は神とコミュニケートできると信じこんでいるような人です。ま、そういうふうに信じている人は他にもいるでしょうし、それはそれでべつにかまわないのですが、ただ、「神の声を聞け」と他人に強要するとなると話は違ってきます。いろいろあって父親は結局病院に強制入院され、兄弟たちは取り残されてしまいます。そういう親ではありますが、かれらにとっては絶対者として存在しています。とくに長男はかなり父に傾倒しているようです。

父がいなくなってからも兄弟たちはなんとか飢え死にすることもなく暮らしていました。暮らしはごく質素で、学校にも行かず、暇さえあればウェイト・リフティングなどをして体を鍛えておりました。暇さえあればといってもなにしろ学校にも行かないから暇だらけ。おかげ写真にあるようにみんなそろいもそろって筋肉マンになりました。しかし、それだけではなく彼らが生きていけたのは兄弟のきずながそれなりに強かったということもあるでしょう。とくに末っ子のエーロに対してはみな保護者のような気持ちがあったようです。

ある日エーロがコンビニのスロットマシンで遊んでいたところ、戻ってくるはずのコインがもどってこないということがありました。それを聞いた兄たちは「けしからん、そんな機械はぶっこわしちゃる!」と憤ります。そこで夜中にショップに忍び込み、マシンを盗み出すことになりました。そのやり方がとにかく荒っぽい。なにしろ日頃から鍛えていますからね。頭はとにかく力を使うことにかけては誰にもひけをとりません。そして持ち出したマシンを壊したところ、中から金がざくざく。四人は歓声をあげますが、そのうちエーロがふと気がついて「ねえ、その金を全部もらっちゃうのはどうかな。ぼくが損した分だけ取り返せればいいんだから」と言いますが、これほどの獲物を目の前にして誰も聞く耳をもちません。

始まりはそんなふうでした。ショップの店長は「レジの中の金はみんな手つかずに残っているのになんだってスロットマシンを一台だけ盗むんだろう?」と首をかしげます。警察も思案顔です。「また誰かがテレビでやってたんだろう。ま、この頃はどいつもこいつもテレビのマネをするからな」

この犯罪のどこがユニークであったかというと、じつはかれらはテレビの影響を受けようにもその術がなかったということです。かれらの生活にはテレビというものすらなかったのですから。だからかれらの犯罪は絶対にコピーキャットなどではなくオリジナルなものだと断言できるのです(事の良し悪しは別として、ですが)。

さて、成り行きからかれらの犯罪は次第にエスカレートしていきますが、その手口があまりにも常軌を逸していたため、警察はどうしても尻尾をおさえることができません。そのころには兄弟たちも生まれてはじめてテレビを買い、ビデオで「ターミネーター」なんか見たものの、終わったあとしばらくは言葉も出ない。「おい、これってほんとのことか?」 この四人のボーゼンとした表情がなんともおかしい。

ターミネーターはなんかよくわからなかったけど、「でも、あいつがつけてたサングラス、あれ、よかったよな」「うん、うん」ということで兄弟たちはさっそくサングラスを買いに出かけます。ついでに生まれてはじめての豪勢な食事も − 豪華な食事とはテーブルにあふれんばかり並べられたジャンクフードのオンパレードです。見たこともないものは想像もできない。かれらにとってごちそうといえばジャンクフードに決まっているのです。

こうして金が手に入るようになりましたが、かれらにとって金というのは本当のところそう大きな意味はなかったようです。無知というのはある意味で新鮮ではないかと変にうらやましく思ったりしてしまいます。

かれらの中で唯一「普通でありたい」と願っていたエーロにガールフレンドができ、ひと晩ともに過ごす計画ができました。そこで兄弟たちに家をあけてもらうことになったシーンは面白かったですね。
「あいつがガールフレンドと家にいて、なんだって俺たちがこんなところにいなきゃいけないんだ」 ぶつぶつ言いながらも兄たちはおとなしく車の中で時間をつぶしています。
しばらくして、とつじょ聞こえる女の子の悲鳴。兄たちははっとして飛び出そうとしますが、ひとりが止めます。
「やめとけよ。邪魔だって!」
「だって、だいじょうぶかな?」
「女の子ってのは最初のときはあんな声を出すもんなんだ」
「知りもしないくせに」
女の子を知らないのはみんな同じ。躊躇しながらもみな浮かせた腰をもとにもどします。そこへまた悲鳴が。
「おい、やっぱ、おかしいぜ」
それでも依然として大事なときに邪魔をしてはならないという判断が勝り、兄たちは行動に出ることをためらいます。ところへ、今度はエーロの悲鳴。
「やめて、パパ!」
兄たちは脱兎のごとく駆け出します。侵入者は精神病院を脱走してきた父でした。弟の幸福を踏みにじろうとする父に対し兄たちは今度こそ本気で憤りを覚えます。かれらはこの瞬間に父の呪縛から解放されたといえるかもしれません。そのケリとしてかれらは金の亡者と化した父の前で札束を燃やしてしまうのです。

コメディ・タッチになっているので映画として楽しめましたが、考えてみれば深刻な話です。兄弟たちは後にインタビューで、
「ぼくたちに子供時代はなかった。
親が大人でなければ子供は子供たりえない」
と語っていたそうです。それはおそらくこの家族だけのことではないでしょう。


 

スオメリンナから見たヘルシンキ

 

 

 

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